モノクローナル抗体作製における腸骨リンパ節細胞を用いたポリエチレングリコール融合法(PEG法)、電気的融合法、センダイウィルス外膜蛋白質融合法(HVJ-E法)との比較検討 |
核移植によるメラノーマゲノムのリプログラミング |
融合のタイミングが制御可能なエレクトロフュージョンデバイス |
生体膜の電気融合のためのマイクロ流体デバイス |
クローン仔牛の誕生と牛ES細胞の遺伝子導入キメラ胚の作成 |
◆電気的融合法 電気的融合法は、細胞融合装置 ECFG21・LF201(ネッパジーン社製)を用いて行った。 電極は、MSスタンド型チャンバー白金電極 CUY497P2(電極間隔:2mm gap, 電極サイズ:L80mm×W2mm×H5mm, 容量:0.8ml, ネッパジーン社製)を用いた(図1)。 電気融合用電極液は、0.3Mマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム溶液を使用した。 |
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15ml用プラスチック製遠沈管にリンパ球とミエローマが1:1の割合になるように融合用電極液に懸濁し、遠心して上清を吸引除去した。 細胞沈査に融合用電極液を2.4ml加えて細胞懸濁液を作った。 |
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細胞懸濁液を0.8mlずつ3回に分けて電気パルスをかけた。 細胞を接着(パールチェーンを形成)させる為の交流(周波数:1MHz、電圧:30V)を20秒間行い、細胞融合する為の直流パルス(電圧:350V、パルス幅:30μs、パルス間隔:0.5秒)を3回かけた。 |
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融合し終えた細胞液は、1000回転5分間の遠心後、細胞沈査に10%BM-Condimed H1を添加したHAT培地を加えて攪拌し、96穴培養プレート4枚に播いた。 |
表1:マウス腸骨リンパ節法における融合法の比較
PEG法 陽性ウェル数 |
電気的融合法 陽性ウェル数 |
PEG法:電気的融合法 比率 | |
1回目 | 166 | 250 | 1:1.5 |
2回目 | 60 | 182 | 1:3.0 |
3回目 | 65 | 262 | 1:4.0 |
◆PEG法と電気的融合法の比較
マウス腸骨リンパ節細胞を用いてPEG法と電気的融合法の比較実験を行った。 2本の凍結チューブの細胞を解凍して混ぜ合わせ(約4×107個)、それを2等分し一方をPEG法で融合し、もう一方を電気的融合法で融合した。 このセットを3組行った。 3セットの融合の比較では、1.5〜4.0倍の値で電気的融合法の方が多くの陽性ウェルが得られた(表1)。 平均すると2.8倍であった。
◆電気的融合法の考察
ラット腸骨リンパ節細胞を用いて、PEG法・電気的融合法・HVJ-E法の3種類の融合法で比較実験を行った(図2・図3)。 電気的融合法は、PEG法やHVJ-E法に比べて少量のリンパ球でも細胞融合ができ、また操作時間も短時間ですむ。 融合した細胞に与えるダメージが少ないようでハイブリドーマの成長が早い。 従って陽性ウェルのELISAスクリーニングもPEG法に比べて1日早く行うことになった。 融合の操作が簡単なため融合技術に個人差はないと考えられる。 一度、細胞融合操作及び電圧の条件等を最適化しておけば同じ動物種のリンパ球であれば、いつも同じ条件で細胞融合が行える。 一定条件で融合させれば結果にばらつきが少ない。 細胞融合も短時間で細胞に与えるダメージも少なくしかも融合効率が一番高い。 今回のラットリンパ節法のモデル実験では、PEG法に比べて約6倍の陽性ウェルが得られている。
◆まとめ
今回、3種類の細胞融合方法をマウス及びラット腸骨リンパ節細胞を用いて比較検討した。 PEG法は、経済的であるが融合ごとの差が大きい。 HVJ-E法の効率は、PEG法と同程度かそれ以上であったが融合細胞が元気に増殖すると言う点においてPEG法に比べて優れていると思われる。 電気的融合法の効率は、PEG法と比較してラットで約6倍、マウスで約3倍の高い効率であった。 効率・確実性と言う点も含め3種類の細胞融合方法の中で、明らかに電気的融合法が優れていると判断される。
重井医学研究所 免疫部門 井上聡子先生・佐渡義一先生 提供
図1. 癌細胞からマウスを作るための2段階のクローニング手順
除核卵母細胞への核移植のために、種類の異なる腫瘍細胞をドナーとして使用した。 ES細胞を作るために、得られた胚盤胞を培地へ移植した。 ES細胞の発癌と分化の可能性をSCIDマウスに奇形腫を生じさせin vitroで評価し(1)、キメラマウスと完全にES細胞に由来するマウスを作るために、細胞を2倍体(2)・4倍体(3)の胚盤胞へ注入してin vivoで評価した。
図2. R545-1 ES細胞の発生の潜在性の分析 | |
(a) | 核移植による肺癌細胞由来の胚盤胞のハッチングで、卵割腔・栄養外胚葉層・内細胞塊が見られる。 |
(b, c) | R545-1ES細胞から作られた奇形腫部のH&E染色により、成熟神経細胞・間葉細胞・扁平上皮細胞への分化が見られ(b)、円柱上皮細胞・軟骨細胞・含脂肪細胞の分化が見られる(c)。 |
(d-f) | GFPラベルしたES細胞の新生キメラマウスへの寄与。 上段は、キメラマウスの頭(d)・心臓(e)・腸(f)のGFP像。 下段は、位相差顕微鏡下での同じ像。 |
(g) | Rag2/R545-1 ES細胞キメラの末梢血FACS分析で、FITC-IgM/PE-B220抗体を使ったB細胞とFITC-CD4/PE-CD8抗体を使ったT細胞の存在が示されている。 |
(h) | R545-1細胞の皮膚への寄与によりメラニン細胞への分化が示されている。 矢印はキメラマウスのの目と首の腫瘍の自然発生を示している。 |
(i) | 4倍体補完法で完全にES細胞から作られた胚が、明らかな尾芽と肢芽・閉鎖した神経管・鼓動を打つ心臓を伴ってE9.5へ成長している。 |
図3. キメラマウスの癌の表現型 | |
(a) | メラノーマドナーマウス(上段)と核移植キメラマウス(下段)の腫瘍発生潜伏期間の比較。 ドキシサイクリン再投与後、核移植キメラの腫瘍発生潜伏期間がドナーマウスと似通っていることに注目。(再発性腫瘍) |
(b-d) | R545-1核移植キメラに形成した腫瘍の代表的な写真と免疫組織染色。 矢印は腫瘍の成長部分を示している。 H&E染色とメラニン特異のTRP-1抗体・筋肉特異のデスミン抗体MPNSTを検出するGFAP抗体・S-100抗体による免疫組織染色により、メラノーマ(b)・横紋筋肉腫(c)・悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST:d)が確認された。 |
Massachusetts Institute of Technology, Whitehead Institute for Biomedical Research and Department of Biology, Konrad Hochedlinger先生, Robert Blelloch先生
Genes & Development, Volume 18, Issue 15, Pages 1875-1885, 1 August 2004 参考
図1. 融合用チャンバー内ドロップレットの電気融合 | |
(a) | 上流のドロップレットがチャンバー内に入る。 |
(b) | チャンバー拡大の為、ドロップレットは融合チャンバー内の進入時に減速し接触する。 |
(c) | 電場条件(電極間750μm gap, 電圧:50V, パルス幅:10μs, パルス間隔:0.2sec, 5回)で接触したドロップレットが融合する。 |
(d) | 写真は二つの融合したドロップレットである。 ※電極先にある円形粒子は気泡 |
細胞融合装置(LF101:ネッパジーン社)を用いて電気パルスを出力した。 |
図2. 高速度カメラ画像による融合プロセスの様子
融合プロセスはほぼ一瞬で行われ、2つのドロップレットは1ms以内に結合し一つの“ピーナッツ型”のドロップレットとなる。 さらに5ms 後にドロップレットは表面張力の影響で球状になる。 融合プロセスを通して、紺青色インクのドロップレット(左端)と淡色のドロップレット(右端)は、はっきりと分離している。
東京大学生産技術研究所 マイクロメカトロニクス国際研究センター
Wei-Heong Tan先生・竹内昌治先生
※Lab on a chip, Volume 6, Issue 6, Pages 757-763, June 2006 参考
図1. 装置概略図とリポソーム融合プロトコル 様々なギャップの電極を作成した。 |
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リポソームはAC(交流)電圧により、電場のラインに沿って整列する。 |
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高電場のDC(直流)パルスによって膜破壊が生じる。 |
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これらの膜は再結合し、ハイブリッドシクルを形成する。 装置(LF101:ネッパジーン社)の仕様に従って、入力インピーダンスが1kΩ以上必要であり、電気融合のプロトコルで必要とされる100kHz〜1MHzの周波数を範囲とする必要がある。 |
図2. リポソーム融合の実験順序
(1) 整列、(2) 膜破壊、(3) 再結合
ベシクルの整列から膜破壊後の再結合まで、実際のリポソーム融合順序を説明している。
図3. バルク電極を用いた大腸菌(Provacuoles)の電気融合
(a) 整列、(b) 融合後
電気融合の条件は、DCパルスの回数が多くて(20回)長い(90μs)ことを除き、リポソームの条件と類似している。 膜の再結合は起こったが、適切なスフェロプラストの再構成は、膜剛性により依然妨げられた。
LIMMS/CNRS-IIS, Guillaume Tresset先生、
東京大学生産技術研究所 マイクロメカトロニクス国際研究センター 竹内昌治先生
※Biomedical Microdevices, Volume 6, Number 3, Pages 213-218, September 2004 参考
図1. 牛ES細胞の核移植により生まれた世界初のESクローン仔牛
A:誕生後2日目
B:4週間後
C:クローン仔牛のDNAフィンガープリント法による親子関係
クローン仔牛及びドナーES細胞は、それぞれレーン(b), (d), (f)並びにレーン(g)でDNAフラグメント分析パターンが完全に一致している。
(a), (c), (e):レシピエント牛
ドナーES細胞を卵母細胞の囲卵腔に挿入後、融合培地中で細胞と細胞質体を電気融合させました。
(細胞融合装置:LF101, DC電圧:20V, パルス幅:50μs, パルス間隔:100ms, 2回)
図2. EGFP遺伝子導入牛ES細胞のキメラ受精卵(胚)での遺伝子発現
A: B: C: D.E: F: |
EGFP遺伝子導入牛ES細胞の位相差顕微鏡像(200倍) Aの蛍光顕微鏡像 10〜15個のES細胞を8〜16細胞期 の割球中に注入している。(蛍光下位相差像) EGFP導入ES細胞と牛体外受精胚とのキメラ胚作成の為の顕微操作手順(200倍) キメラ胚作成後に1日培養し、ES細胞が胚の一部となって増殖している。(200倍) |
G: | EGDP遺伝子導入キメラ胚 培養5日目となり、孵化胚盤胞に発達した。 |
H: | Gの蛍光顕微鏡像 EGFP遺伝子発現が胚盤胞の内細胞塊及び栄養膜両部位で顕著に観察され、ES細胞が完全に胚の一部を形成している事が判明した。 |
齋藤セルテクノロジー研究所 齋藤成夫先生
※Biochemical and Biophysical Research Communications, Volume 309, Issue 1, Pages 104-113, 12 September 2003 参考